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ポケモンGOやLINEなどMVNO(格安SIM)が特定のサービスの通信を無料化する「ゼロレーティング」について

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SIM

先日のLINEモバイルもそうですが、LINEやポケモンGOなど特定のアプリに関わる通信を無料にするという施策を行うMVNO(格安SIM事業者)が増えてきています。

これらのサービスを実施するには通信の中身を見なければいけないし、情報が筒抜けになっているのではないか?と心配する声もあったりなかったりします。

そんなわけで、ざっくりとですが、このようなサービスがどのように行われているのかを書いてみました。

特定のサービスを無料とするゼロレーティング

LINEやポケモンGOに関わる通信を無料化するサービスのことを「ゼロレーティング」といいます。
日本語にすると、そのまま「無課金」ですね。

日本だけでなく海外でも行われているサービスで、最近だと米の通信キャリアT-MobileがポケモンGOに関わる通信を無料化するサービスを実施しています。

このゼロレーティングを実施するためには、どのパケットがどのアプリのものなのかを把握する必要がありますが、これを行う技術がDPIです。

DPI(ディープ パケット インスペクション)

大雑把にいうと、ネット上を流れるデータの塊(パケット)は宛先などが書かれているIPヘッダと通信データが入っているデータ部に分かれており、IPヘッダだけみればどこから何処充ての通信なのかがわかります。

ただ、それだけだと、例えばP2Pや大容量な動画視聴で帯域を占有している、どのアプリからのパケットなのか、などの情報がわかりません。
これを調べるにはデータを検査する必要があり、それを行うのがDPIという技術です。

要するにフィルタリングの一種ですね。
実際、中国などで特定のキーワードを含むサイトにアクセスできなかったり、そういうキーワードで検索したりするとネットへの接続が切られたりといったことがあるのは有名な話です。

このDPIを使用すると、どのアプリの通信なのかがわかるので、ゼロレーティングのように特定アプリの通信だけ無料にする(通信量としてカウントしない)ということが可能になります。

DPI、ゼロレーティングを提供しているのはMVNOではなくMVNE

ところで、このDPIを行うには相応の設備が必要になるため、これを提供しているのはMVNOではなく、その上位のMVNEになります。

MVNEというのは実際にサービスを提供するMVNOとdocomoなどの回線設備を提供するMNOを橋渡しするコンサルみたいなものです。
docomoなどのMNOと接続するための設備は大掛かりになるためすべてのMVNOが用意できるわけではなく、MVNEがdocomoと接続し、回線を再販するような形でMVNOに卸しているところですね。

主要なところでは、

  • OCN(OCN、LINE Mobile、など)
  • IIJ(IIJmio、DMMモバイル、イオンモバイル、など)
  • Freebit(DTI、U-Mobile、など)

というようなところがあります。
ちなみに、FREETELはMVNEを介さず、自身でdocomoと接続しています。

DPIはパケットの中身を調べるのでやりようによってはメールなどの中身や検索キーワードなども取得することが可能です。
DPI(やゼロレーティング)が通信の秘密を侵していると言われるのはこのためです。

この辺、ユーザとしてはISPなりキャリアなりを信じるしかないのですが、個人的には「ネットの通信は(暗号化などを行わない限り)すべて筒抜け」ぐらいの気持ちでいるのがよいのではないかと思っています。

一応、この件について各社注意書きのようなものがあり、FREETELの場合、

一部の通信料を無料とするために、これらサービスに関わる通信先(送信元IPアドレス、接続先IPアドレス、ポート、HTTPヘッダ、TLSヘッダ)を弊社装置で識別していますが、お客様が実際にやり取りされている通信内容(例えばメッセージの内容、等)については識別していません。また、識別に使用したデータについては当該サービスのみに使用しており、かつ保存もしておりません。

LINE Mobileの場合は、

カウントフリー機能とは、一定のデータ通信をデータ通信利用容量の対象外とする機能をいいます。
当社は、カウントフリー機能に係る業務をMVNE(仮想移動体サービス提供者)に委託しており、MVNEは、カウントフリー機能の実現のために必要最低限のデータ(IPアドレス、ポート番号、パケット内容のうちヘッダの一部(テキスト、動画、画像等のデータ内容含まない部分))を機械的及び自動的に識別することで、カウントフリー対象を識別しております。

ということになっています。

閑話休題

ゼロレーティング(DPI)を行うかはMVNEの方針が強く影響しているようです。

例えば、OCNやFreebitは柔軟にサービスを実施している(LINE MobileやDTIが提供(予定))ようですが、IIJは、過去のIIJMeetingにおいて、DPIについて「正当業務行為に限って行うこととしている」と回答しています。

正当業務というのは、業務上(サービス提供上)それを行う必然性があるかどうかということで、IIJの場合、クーポンのオンオフや残量確認などにDPIを利用しているとのことです。

じゃぁ、IIJがMVNEとなっているMVNOがゼロレーティングを行えないのかというとそういうことでもなく、(MVNEとしてサービスを提供している)DMM Mobileが自社の動画サービスをゼロレーティングで無料にするようなことは問題ないという認識を示しています。

ゼロレーティングとネットの中立性

ゼロレーティングで度々話題になるのが、「ネットの中立性」です。

「ネットはみんなのものなのだから、何か(どこか)を優遇したりしてはいけない」「ネット上にあるコンテンツにはみな平等にアクセスできるべき」という考えかたです。

これがゼロレーティングでなぜ問題になるのかというと、例えばあるサービスに対してゼロレーティングを実施すると、当然その競合サービスへのアクセスが減ることが予想できます。
これが「ネットの中立性」に反するのではないか?という話です。

自由競争なんだからいいのでは?とも思うのですが、どこか1つのサービスが優遇されてしまうと、ユーザの他のサービスへのアクセス機会を奪ってしまい、結果として「オープンなインターネット」ではなくむしろ閉じた世界になってしまうという考え方が根底にあるみたいです。

ユーザの選択の結果として淘汰されるのは構わないけど、ユーザの選択権を奪ってはいけないってことですね。

日本では大手キャリアがゼロレーティングを実施していないのもこの辺が絡んできているのでしょう。
まだ数が少ないですし、「MVNOを選ぶ=ゼロレーティングで無料になるサービスを選ぶ」という形になっているので大きな問題にはなっていないのでしょうけど、今後MVNOの割合が増えてくると問題として大きく取り上げられるようになるのかもしれません。